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チェックアウトの手続きをしている咲世子を待っていると、こちらに近づいてくる足音がきこえ、スザクはそちらに意識を集中させた。訓練を受けていない人間の歩き方、中肉中背といった所だろうか。人数は3人。 スザクの反応に気付いたC.C.は、視線だけそちらに向けた後眉をよせた。 「ナンパ男だ」 うんざりとした声で彼女は呟いた。 ナンパ男たちは、ドタドタと無駄に大きな足音を立てながら「あれ?もしかして・・・あ、やっぱりさっきの彼女じゃん!」と、大きな声をあげた。成程、どうやら育ちも性格もあまりよろしくないらしい。ブリタニアの圧政が終わり、自由を得た事の反動か、碌な教育を受けられなかったせいなのか、礼儀知らずの若者が増え、社会問題になっていた。 英雄ゼロは元テロリスト。 革命家や反乱軍というよりも、ブリタニアの支配下にあった日本ではテロのイメージが強いため、馬鹿な若者が悪さをし、逮捕された後「ゼロだってやってたんだから、俺たちがやってもいいじゃないか」と返す者もいるとか。 「なんだよ、ホントに帰っちゃうのかよ~!なあなあ、金なら俺らが払うからさ、もう1泊してけって」 C.C.は髪を結い上げ帽子をかぶり、盲目を装っているためサングラスを着け軽く変装しているのだが、一度目をつけた女だからか、その程度の返送では男たちの目を欺くには足りなかったらしい。盲目を演じている今、正直関わり合いたくはなかったが、知らぬ存ぜぬで通せばますます大声で騒ぎ出すに違いない。 「残念だが、今日はこれから用がある。他を当たってくれ」 C.C.はいつものように表情も変えることなく軽くあしらったが、相手は引かない。 何せアイドルやモデルと言われても納得するほどの美女とお近づきになれる機会など、そんなお店以外ではなかなか難しい外見の男たちだ。逃す物かとC.C.を囲もうとするが、スザクはさりげない仕草でC.C.をかばった。 「俺の連れに何か用でも?」 スザクはカツラもかぶり、眼の色も変えるぐらいガッチリと変装しているから、悪逆皇帝の騎士・ナイトオブゼロ・枢木スザクとは気づかれないだろう。とはいえ、いくら変装していようと、スザクもまたモデル並みの美形だ。目や髪、肌に色は変えることが出来ても、整った顔立ちは変えられない。 美男美女を前に、男たちは思わず顔を見合わせた。 「二人共、何をしているんですか?もう行きますよ」 咲世子がチェックアウトを終え二人の傍にやって来た。 こちらもカツラとメガネ、マスクで変装をしている。 「・・・おいおい、まじかよ!なんだよ、いいなイケメンはよ!美女二人をはべらせて旅行かよ!」 「なんだ、羨ましいのか?そうだろう、そうだろう、私のような美人はそうはいないからな。まあ、お前たちでも大金を払えば美人と旅行ぐらい出来るんじゃないか?・・・おっと、だいぶ押しているんだったな。急がないと間に合わない」 C.C.は時計を見てからスザクの腕を引っ張った。 スザクは目が見えないため、自然な形で手を引き方向を示すと、スザクはC.C.をエスコートするような形で歩きはじめ、咲世子はその後ろについた。 まだ男たちがなにやら騒いでいたが、駐車場まではついて来なかった。 運転席にC.C.、助手席に咲世子、後部座席にスザクが座り大きく息を 吐いた。 「C.C.様、目立つような行動は控えてください」 いくら変装をしていても、こうして目立つ事をされたら疑われかねないと咲世子が注意をすると「解っているが、絡まれたのだから仕方がないだろう」と、不貞腐れながら答え、車を発進させた。 あの若者たちは、C.C.の盲目設定を知らないため、新緑の髪の少女の行方を聞かれれば、ここにいいたと答えてしまうだろう。ともにいた人物のことも話すだろう。不安要素が増えてしまったことに苛立ちは隠せない。 だが、万が一ばれていたとしても、ここから先捕まらなければいいだけだ。 最悪、遺跡経由でブリタニアに戻り、シュナイゼルの保護下に入る道も視野に入れながら、車は検問がないという道を北上していった。 その途中で一度人通りの無い道に入り、変装をし直した。といってもかつらを変え、着替えた程度だ。スザクは座席の下に身を隠し、毛布をかぶって外からも見えないようにし、女二人で乗っている風を装った。 ナンバープレートも強力なマグネットがついた偽プレートを上に張り付けたため、同じ車種の別の車だと判断されるはずだ。先程は貼っていなかったステッカーも貼る。よく車にはられている赤ん坊が乗っている事を示すステッカーだ。これ一枚で、車の印象も変わる。 そうやって出来る限りの偽装をし、車を走らせていると、こんな温泉街には不釣り合いな連中が、車で巡回するように回っていたり、一軒一軒調べ回っている姿が目に入った。電話で確認すれば早いだろうにとC.C.は言ったが、客の情報を流すほど旅館は馬鹿じゃないと返された。 「私たち・・・いや、ゼロを探しているのか、別の誰かか。もしゼロだとすれば、何処で気付かれたのやら」 ブリタニアから日本へ。 近いとはいえない距離を、渡航記録無しで移動したというのに。 「検問という事は、警察あるいは軍が絡んでいる可能性が高いかと」 「・・・となると、カグヤが怪しいか」 「ここは神根島の遺跡から移動してすぐの温泉街。見知らぬ男女が無人島からやってきたのですから、そこから足がついた可能性は高いかと思われますが」 言われてみれば確かにそうだ。 しかも乗ってきたボートは放置してきた。 カグヤが何を知っているかは知らないが、スザクが、いやゼロであったルルーシュとC.C.も含めあの遺跡と関係深い事を知っていて、日本に来たと判断し動いた可能性はないとはいえない。 その動きを見た各国も、それに合わせて動いたのかもしれない。 日本とブリタニアには目を光らせているはずだから。 「こう考えると、随分と間の抜けた移動をしたものだな」 とはいえ、普通なら出入国記録なし、しかもある程度長距離が移動可能とはいえボートでブリタニアから移動したなどと考えないと思うが。 「考えが甘いよ。ゼロは奇跡を起こすんだよ」 このぐらいの事ならやってのけると思われて終わりだよ。 スザクの言葉に、そう言えばそうだったと二人は息を零した。 「まったく、ゼロが逃げても、その足を引っ張るのがゼロとはな」 「言っておくけど、足を引っ張ってる方のゼロは僕じゃないからね」 奇跡の体現。 それは今のゼロではなく初代ゼロのものだ。 数多くの奇跡を起こしたゼロはただ一人、ルルーシュだけ。 だから、スザクが逃げる邪魔をしているのは、ルルーシュということになる。 「・・・笑えない冗談だな」 「ほんとにね」 「本当に笑えないのは、ここから先ですよお二人共」 咲世子の固い声に、C.C.は辺りを見回した。 運転しながらだからはっきりとは解らないが・・・嫌な感じだ。 「やはり罠だったか。さて、困ったな?」 不老不死の魔女は、どこか楽しげに言った。 |